その9 冨樫君とジンギスカン

 <失いかけていた、熱い心を思い出したよ!>

 中学2年の冬になり、部活も一段と忙しくなってきた。バスケ部の練習は走ることばかりなので、毎日クタクタになって少しSRちゃんから離れていた。

 私と同じ部活の友達に「冨樫」という男がいた。背は高いのでバスケに有利なのだが、動きがかなりぎこちなくて、ちょっと変わった男であった。その彼が一度私の家に遊びに来たことがあり、一緒に88をやったりしていた。なにをやったかはよく覚えていないが、サクサクっと「ぺんぎん君ウォーズ」や「プロ野球FAN」なんかで接待した気がする。

 と、その冬休み、やたら彼が遊びに来るようになる。そしてその一言目には必ず「ジンギスカンやらせて〜」であった。

 「ジンギスカン」とは光栄の歴史シミュレーションであり、大変時間のかかるゲームである。確かに面白いが、友達が遊びに来たときはシミュレーションは時間がかかるのでやらなかったはずなのだが、いつの間にか毎日「ジンギスカンやらせて〜」と来るのである。

 冬休みは彼に付き合って私が「源 頼朝」、彼がビザンツ帝国の「アレクシオス」として毎日やっていた。そのうち休みが終わり、学校や部活も大変になってきたのだが、夜6時ころでも平気で部活後に、ジンギスカンやらせてと来るのである。

 これには困った。家はそんなに人が来るのにうるさい家ではなかったが、さすがに毎日だと私も部活でクタクタでまいっていた。しかも自転車で30分くらいかけてくるので、むげに追い返すこともできない。そんな時、ふと気が付いた。私は88を持っていなかったとき、前述の通り(その1)同じマンションに住む「ふくちゃん」のうちに毎日押しかけて野球狂」や「ちゃっくんぽっぷ」をやっていたが、「ふくちゃん」も同じ気持ちだったのだろうと。今になってちょっと気恥ずかしい。でも、こういう問題は当時ファミコン等を買った家庭に少なからずあったはずである。もっと恥ずかしい話で、その「ふくちゃん」の友達という人(初対面)にゲーセンで声をかけられ、その人の家でファミコン版の「ゼビウス」をなぜか誰もいない居間のTVの前で1人ぼっちでやっていたことを覚えている。たしか私を置いて家族全員で買い物に行ってしまったような・・・。(その人と会ったのもそのとき限りである。)

 話はもどって、一緒にジンギスカンをやっている「冨樫君」の目はいつもキラキラしていた。私はゲームに対してある種の「時間の無駄」を感じ始めていた頃であったので、純粋に楽しく遊んでいる彼を見て、少しうらやましくも思った。

 そして、そのうちゲームに飽きたのか彼はあまり来なくなった。今思えば高校受験の準備をもう始めていたのかもしれない(彼は成績が良かったので)。

 私はと言うと、くすぶっていたゲーム魂に火をつけられ、「ジンギスカン」でいう所のオルドという世継ぎを作るコマンドを駆使して、君主が寿命で死ぬ前に他国の姫を一世代1人ずつ嫁にもらい「1200年代」から現代の「1900年代」までゲームを存続させようと、変な形での熱い心を燃やしていた。





1600年代までつづけたが、さすがにつまんなくなってやめてしまった。それ以来「ジンギスカン」はやっていない・・・。

(つづく)

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